こんにちは。digireka!HR編集部です。企業の人材配置・育成に役立つ制度の一として「ジョブローテーション」があります。
人事担当者様の中には、
・ジョブローテーションのメリットとは?
・効果的にジョブローテーションを行う方法がわからない
など、さまざまな疑問や悩みを持つ方も多いかもしれません。
今回はジョブローテーションに着目し、実施状況、制度の目的、メリット、デメリット、向いている企業、企業事例について解説します。
ジョブローテーションとは?
ジョブローテーションとは、従業員の育成を目的として、定期的な部門の異動や業務内容の変更を行う制度です。
ジョブローテーションには、他部門の業務に従事する場合と同一の部門内で他の業務に従事する場合があります。様々な業務を経験させることで、従業員の能力開発や社内ネットワークの強化を目指します。
ジョブローテーションと人事異動の違い
ジョブローテーションと人事異動では、どちらも企業の人事戦略に基づく「異動」を意味し、一見同じように思えますが、それぞれがもつ「目的」に違いがあります。ジョブローテーションでは、最終的に自社にとって有益な人材や経営者の候補者を増やすべく、「従業員の育成」を目的として部内ではなく、部署を超えた異動が発生します。一方で人事異動は、「企業の経営戦略の実現」を目的として、欠員の補充や役割の変更が行われます。役職変更となるケースが多く、部署内での異動も起こり得ます。
昇格などで役職が上がる可能性のある人事異動では、出世とみなされるケースも多くありますが、ジョブローテーションはあくまでも「人材育成」のために行われるものであるため、「ジョブローテーション=出世」とは言い切れません。
日本のジョブローテーションの実施状況
では、ジョブローテーションの実施状況はどのようになっているのでしょうか。
独立行政法人の労働政策研究・研修機構が行った調査(対象:従業員300人以上の企業1852社)をもとに見ていきましょう。
参照:)「『企業における転勤の実態に関する調査 調査結果の概要』 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 」
全体でみると、ジョブローテーションが「ある」と回答した企業は53.1%と過半数を占める結果になりました。
また正社員規模別にみると、正社員が300人未満の企業では37.3%、300人~500人未満の企業では51.3%、500人~1000人未満の企業では57.2%、1000人以上の企業では70.3%が「ある」と回答しており、規模が大きいほど実施率が高いことが分かりました。
ジョブローテーションを行う目的
(1)新入社員の適性を見極める
ジョブローテーションの大きな目的として、新入社員の適性を把握することが挙げられます。
例えば、新入社員に数週間から数ヶ月単位の短期周期でジョブローテーションを行い、大まかに適性を見極めることがその一例です。まだ業務経験の少ない新入社員の適性判断によく使われることが一般的です。
(2)管理職候補生を育成する
将来の管理職候補生を育成するために、半年から数年の長期的周期でジョブローテーションを行う企業もあります。
人脈を広げたり、人事の実情を知ったり、実際に企業の中でその部署がどのような立ち位置にあるかなど、管理職に必要な俯瞰した視点を育成することができます。
ジョブローテーションを行うメリット
本章では、ジョブローテーションを行うメリットを企業側と社員側の2つに分けて紹介します。
企業側のメリット
ジョブローテーションを行う企業側のメリットは以下の4つです。
- 社員の特性を判断できるようになる
- 適材適所の配置ができるようになる
- 社内ネットワークが構築される
- 業務の属人化を防止できる
以下で詳しく解説します。
社員の特性を判断できるようになる
人材の特性を判断することは難しいです。ジョブローテーションを通して、実際の業務を体験してもらうことができれば、その社員の強みや弱みが明確になります。実際に業務を肌で体験することで、思いも寄らない社員の特性が見つかることもあるかもしれません。
適材適所の配置ができるようになる
ジョブローテーションによって、社員は様々な業務を経験することになり、そこから本人の意思や適性を見極めることができます。その結果を受けて、人事は社員をより本人の適性により合った職務に配属することができます。
社内ネットワークの構築される
ジョブローテーションによって社員が様々な部署を経験することで、今まで交流のなかった部門間のつながりや、社員同士のコミュニケーションが生まれます。社内ネットワークが構築されると、部署間での連携が円滑になり、企業全体の生産性向上につながるでしょう。
業務の属人化を防止できる
特定の社員がその業務を長く続けていると、その社員が抜けた時に業務が遂行できなくなってしまいます。しかし、ジョブローテーションが行われると、業務の引継ぎやマニュアルの整備が進むため、万が一社員が抜けても冷静に対応できるようになります。
社員側のメリット
幅広い業務への理解が進む
ジョブローテーションで様々な業務を経験することによって、社員は幅広い業務知識を得ることができます。これにより、様々な業務に対して多くの社員が対応できる状況がつくられ、業務の効率化につながります。
ジョブローテーションを行うデメリット
先ほど、ジョブローテーションを行うメリットを紹介しましたが、実際に導入する前に、デメリットも把握しておきましょう。本章でも、企業側と社員側の2つに分けて紹介します。
企業側のデメリット
ジョブローテーションの導入に伴う企業側のデメリットは以下の3つです。
- スペシャリストの育成には不向き
- 教育コストがかかる
- 退職を促進し得る
詳しくは後述します。
スペシャリストの育成には不向き
専門性の高い人材を育成するためには、その分野に特化して教育する必要があります。ジョブローテーションは半年から数年といった期間で部門や職種を変更するため、特定分野の専門家の育成には不向きといえます。
教育コストがかかる
教育コストがかかるというデメリットがあります。社員が部門を異動するたびに教育や引継ぎが必要となり、人的・時間的コストが発生します。また、長い期間をかけて育成した社員が離職してしまった場合、大きな教育コストの損失となるでしょう。
退職を促進し得る
1つの会社に属しながら、様々な業務での経験を積むことができるジョブローテーションでは、退職を防止するというメリットと、反対に退職を促進し得るというデメリットの両者をもちあわせています。
とくに終身雇用が前提とされている日本企業においては、長い期間において、大きな変化を伴わない業務に携わることに飽きを感じてしまう従業員の方も少なくありません。この点で、新たな業務に携われるジョブローテーション制度を導入することは、同一業務に飽きてしまう従業員の退職防止に繋がります。
反対に、複数の業務を経験しなければならないジョブローテーションでは、「自社に関する理解を幅広く深められるが、専門性が身につかない」というデメリットがあり、専門性を磨きたい従業員の退職を促進してしまうリスクもあります。
社員側のデメリット
専門性が身につきにくい
企業側のデメリットでも紹介した「スペシャリストの育成に不向き」と少し重複しますが、社員側のデメリットとしては「専門性がつきにくい」という点が挙げられます。
たしかに幅広い経験と視野を持つことは重要ですが、スペシャリスト志望の方にとっては遠回りに感じてしまうかもしれません。
またジョブローテーションでは、新たな環境で一から人間関係を築く必要があるため、社員にとっては精神的負担になることもあります。そのため、会社側は定期的な面談を実施して、社員をフォローする必要があります。
向いている企業の4つの特徴
①社員数の多い大企業
社員数が多い大企業の場合、同等の段階にいる社員が多いためローテーションしやすく、業務が回らなくなる可能性も低いです。一方社員数が少ない企業では、ジョブローテーションを行うと業務が回らず、生産性の低下を招きかねません。
②各部門の業務の関連性が高い企業
製造業など企業内の各業務が一連の流れでつながっている職種の場合、ジョブローテーションで業務の前後の工程を知ることで、業務の効率化が期待できます。
③幅広い知識が必要な企業
金融業など幅広い知識が必要な職種の場合、多くの部署を経験し、的確な判断ができる人材が求められます。ジョブローテーションで多くの部門の業務を経験させることで、幅広い知識を持った人材を育成することができます。
④企業文化やポリシーを浸透させたい企業
M&Aを行った企業や店舗・支社の多い企業の場合、企業文化やポリシーを浸透させる必要があります。ジョブローテーションを通して人材交流を進めることで、社員の統一感を生むことができます。
不向きな企業の2つの特徴
ジョブローテーション制度を有効活用できる企業もある一方で、企業の形態によってはデメリットが大きく不向きなところもあります。制度そのものを無駄にしないために、ジョブローテーションの導入に向かない企業をご紹介します。
①少数精鋭を重視している企業
少ない社員数で、少数精鋭の環境を重視している企業の場合、それぞれの業務を習得するまでに時間がかかるジョブローテーションを導入することで、業務の効率化を図ることは難しいでしょう。
②専門的スキルやノウハウが必要となる企業
ジョブローテーションを行う目的は、企業全体に関する理解を深め、ジェネラリストを育成することにあります。そのため、幅広い範囲に関してスキルを身につけることを目指すジョブローテーションでは、ある一部の領域のスペシャリストの育成を目指す企業には向いていないといえるでしょう。
ジョブローテーションの導入の流れ
本章では、実際にジョブローテーションを導入する際の流れを3ステップで紹介します。
対象社員と配属先、実施期間の選定
まず、ジョブローテーションの対象社員(誰を異動させるか)を選定します。年齢や勤続年数、職務経歴、キャリア志向を確認しましょう。対象社員が決定した後は、配属先と実施期間を選定します。
期間は企業や業種、目的によってさまざまですが、短期間であれば6ヶ月以内、長期間であれば2〜5年程度であることが一般的です。期間があまりに短いと、スキルが定着せずに目的が達成できずに終わってしまうこともあります。
ジョブローテーションの目的を明確にした上で「配属先でどれくらいの期間、実績を積んでもらうのか」を決定しましょう。
対象社員に情報共有
配属先と実施期間を選定した後は、対象社員に内容を共有します。ただ、配属先と実施期間を伝えるだけでなく「なぜ、あなたが対象になったのか」「どういう活躍を期待しているのか」といった理由も添えてあげると、社員のモチベーションアップにつながります。
ジョブローテーションを行う上で重要なのは、その異動が社員に良い影響を与えることです。会社都合の一方的な異動は本人のモチベーションに良い影響を与えません。本人の意向を第一優先にすることは常に頭に入れて置きましょう。
実施
対象社員の承諾を得ることができたら、早速ジョブローテーションを開始します。社員は慣れない環境で仕事をすることになるため、精神的な負担になることもあります。部署全体でフォローしながら、成長できる環境を整えましょう。特に定期的な面談の実施は効果的です。本人は負担に感じていても、相談できる環境がなければ、一人で抱え込んでしまいます。面談では業務状況やモチベーションの確認を行いましょう。
各企業の成功事例
(1)ヤマト運輸の事例
ヤマト運輸は、新入社員を対象としてジョブローテーションを導入しています。新入社員は入社してから2年間、現場の主な業務である「配送物の集配」「配送サポート」「営業」といった現場の業務を経験します。現場で経験を積んだ後は、本配属となった部署へ異動します。
(2)三井ホームの事例
三井ホームは、社員を総合職で採用後、「営業担当」「社内設計」「設計担当」「工事担当」「本社技術スタッフ」「本社事務スタッフ」といった、幅広い部門をローテーションさせます。社員が一連の業務に携わることで、各部門の連携が必要になる大きなプロジェクトを円滑に進めることができます。
(3)双日の事例
総合商社の双日は、新卒入社から10年間という期間の育成プログラムの中で、ジョブローテーションを実施しています。人材育成・組織力の向上・社員の活性化目的とし、2~3年に1度の異動で多様な職務経験を積ませることでゼネラリストの育成を目指しています。
(4)富士フイルムの事例
富士フィルムは、若年層を対象に事業や職種を超えたジョブローテーションを実施しています。人事担当者は、社員の育成状況や成長計画をもとに異動先を決めます。社員は各部門の業務を経験することで、幅広い価値観を持つことができます。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、ジョブローテーションに着目し、実施状況、制度の目的、メリット、デメリット、向いている企業、企業事例について解説しました。
ジョブローテーションによって、適性に合った職務配置や社内ネットワークの構築が可能になるなど、多くのメリットが期待できます。
一方、企業によってはジョブローテーションに適さない場合もあるため、導入の際には慎重な検討が必要です。自社の業務と照らし合わせて、導入が可能かどうか吟味する必要があるでしょう。
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