新卒採用では、内定辞退が企業にとって大きな課題となっています。内定辞退率の上昇は、採用コストの増大や業務への影響など、企業に深刻な影響を与えかねません。
本記事では、新卒採用における内定辞退の現状や理由を探るとともに、内定辞退率を下げるための効果的な対策方法について詳しく解説していきます。また、内定辞退を防ぐ際の注意点にも触れ、企業が知っておくべきポイントを明らかにします。
新卒採用の内定辞退の現状
近年、新卒採用における内定辞退率は上昇傾向にあります。
出典:)ニッセイ基礎研究所
内定辞退は、企業の人材確保が困難になるだけでなく、採用活動に投じた時間と費用が無駄になるなど、企業にとって大きな損失となっています。内定辞退率の高さは、企業の採用戦略や就職活動の在り方にも影響を与えています。
新卒が内定辞退をする理由
新卒が内定を辞退する理由は様々ですが、大きく分けると以下の5つが挙げられます。
- 志望度の高い他社からの内定獲得
- 企業イメージとのギャップ
- 入社までの期間の長さと不安感
- 希望条件とのミスマッチ
- 入社後のキャリアビジョンの不透明さ
それぞれについて解説します。
志望度の高い他社からの内定獲得
就職活動では、複数の企業から内定を獲得するのが一般的です。学生は、より志望度の高い企業からの内定を優先するため、他社から内定を獲得した場合、辞退することがあります。
企業は、学生の志望度を正確に把握し、自社の魅力を十分にアピールする必要があります。
企業イメージとのギャップ
学生が抱く企業イメージと、実際の企業との間にギャップがある場合、内定辞退につながることがあります。
採用プロセスを通じて、学生に正確な企業情報を提供し、誤ったイメージを払拭することが重要です。社員との交流機会を設けるなど、学生が企業の実態を知る機会を増やすことも効果的でしょう。
入社までの期間の長さと不安感
内定から入社までの期間が長いと、学生は不安を感じやすくなります。
特に、初めての就職を控えた学生にとって、未知の環境への不安は大きいものです。企業は、定期的な連絡を取るなどして、学生の不安を取り除く努力が必要です。内定者向けのイベントを開催するなども、不安解消に役立ちます。
希望条件とのミスマッチ
学生が希望する条件と、実際の企業の条件にミスマッチがある場合、内定辞退につながることがあります。
勤務地や職種、給与など、学生の希望を丁寧にヒアリングし、可能な限り希望に沿った条件を提示することが大切です。入社後のキャリアパスについても、明確に伝えておくことが求められます。
入社後のキャリアビジョンの不透明さ
学生が入社後のキャリアビジョンを描けないと、内定辞退につながる可能性があります。
企業は、入社後のキャリア形成やスキルアップの機会について、具体的に説明する必要があります。先輩社員のロールモデルを示すなど、学生が自身の将来像をイメージできるような情報提供が効果的です。
新卒採用で内定辞退が起きやすいタイミング
内定辞退は一定のタイミングで集中して発生する傾向があります。これらの時期や状況を予測し、適切に対応することで、内定辞退率を大幅に抑えることが可能です。
志望順位の高い企業から内定を取得した時
新卒学生が第一志望の企業から内定を得ると、その他の内定を辞退する傾向があります。特に、学生が複数の企業から内定を取得している場合、より高い志望度を持つ企業を選びがちです。
このような状況は、学生が最も重視する条件(給与、勤務地、企業文化など)が他の内定先よりも優れていると感じた時に発生します。企業側としては、他社に負けない魅力的な提案やフォローアップが求められます。
入社承諾書や誓約書の締め切り日が迫った時
学生が内定承諾書や誓約書の提出を迫られるタイミングも、内定辞退が増加する時期です。この期限が近づくと、学生は慎重に自身の選択肢を見直し、最も自分に適していると思われる企業を選びます。
この際、複数内定がある場合は他社を辞退する形となります。企業側としては、承諾を促す際に強引さを避け、学生が安心して選べるよう配慮する必要があります。
入社に対して不安を感じた時
入社に対する漠然とした不安や、企業文化や業務内容が自分に合っているかどうかの疑問が、辞退の大きな要因となることがあります。
例えば、学生が「本当にこの企業でやっていけるのか」と感じた場合や、選考過程で十分な説明が得られず、疑念を抱いた場合などです。こうした不安を解消するためには、選考過程での丁寧な情報提供や、内定後のフォローアップが欠かせません。
競合他社からの追加アプローチを受けた時
選考が終了した後でも、競合他社が内定者にアプローチを行うケースが少なくありません。このようなアプローチによって、学生が再び志望順位を見直すことになり、内定辞退に繋がる可能性があります。
特に、競合他社がより魅力的な条件を提示した場合、学生がそちらを選ぶのは自然な流れです。企業はフォローアップの強化や、内定後の関係構築を通じて内定者をつなぎとめる努力が必要です。
家族や友人からのアドバイスを受けた時
学生が家族や友人の意見を参考に最終的な進路を決める場合も多くあります。特に、家族が企業名や業界に対して不安を感じた場合、学生自身の志望度が高かったとしても内定辞退を選ぶことがあります。
このようなケースでは、企業の社会的信頼性や将来性をアピールし、学生が安心して選べる環境を整えることが重要です。
新卒の内定辞退率を減らす9つの対策方法
新卒の内定辞退率を減らすために、企業ができる対策方法は以下の9つです。
人事や採用担当者の誠実な対応
人事や採用担当者は、学生に誠実に接することが重要です。学生の質問や相談に丁寧に答え、信頼関係を築くことが求められます。メールや電話での対応も、迅速かつ丁寧に行いましょう。担当者の対応次第で、学生の内定辞退を防ぐことができます。
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選考中の社内見学や社員との交流機会の提供
選考プロセスの中で、社内見学や社員との交流機会を設けることは、学生に企業の実態を知ってもらう上で効果的です。
職場の雰囲気や社員の働く姿を直接見ることで、学生は入社後のイメージを持ちやすくなります。社員との対話を通じて、企業の魅力や強みを伝えることも大切です。
応募学生の企業選びの優先順位の把握
応募学生が企業選びの際に重視するポイントを把握することは、内定辞退を防ぐ上で重要です。面接の際に、学生の優先順位や他社の選考状況について聞き取りを行いましょう。学生の志向を理解することで、より効果的なアプローチが可能になります。
企業理念や課題の繰り返しの共有
企業理念や抱えている課題を、選考プロセスの中で繰り返し共有することは、学生との信頼関係構築に役立ちます。自社の強みだけでなく、課題についても正直に伝えることで、学生は企業の誠実さを感じ取ることができます。入社後のミスマッチを防ぐためにも、企業の実態を正確に伝えることが肝要です。
選考プロセスのスピード感の向上
選考プロセスのスピード感を上げることは、内定辞退防止に効果的です。学生は複数の企業を並行して選考しているため、選考が遅れると他社に内定を取られてしまう可能性があります。面接の日程調整や合否連絡は、できる限り迅速に行いましょう。
合否連絡のタイミングの適切化
合否連絡のタイミングを適切に設定することも、内定辞退防止につながります。他社の動向を踏まえ、学生に良い印象を与えるタイミングで内定を出すことが重要です。学生の状況に応じて、内定通知の方法を工夫するのも一つの手です。
内定者の印象に残る内定出し
内定通知は、学生の印象に残るものにすることが大切です。単に書類を送付するだけでなく、電話やビデオ通話で直接伝えるなど、学生に喜んでもらえる方法を考えましょう。特に、入社意欲の高い学生には、熱意を込めて内定を出すことが効果的です。
内定後から入社までの定期的なフォロー
内定後から入社までの期間は、定期的なフォローを行うことが重要です。学生の状況を確認し、不安や悩みがあれば相談に乗ることが求められます。メールや電話、オンライン面談など、学生とコミュニケーションを取る機会を設けましょう。内定者向けのイベントを開催するのも効果的です。
内定者同士の関係性構築のための懇親会開催
内定者同士の関係性を深めることは、内定辞退防止に役立ちます。内定者懇親会や内定式を開催し、同期入社予定者との交流機会を設けましょう。同じ企業で働く仲間がいることを実感できれば、学生の不安も和らぐはずです。懇親会では、先輩社員も交えて、和やかな雰囲気づくりを心がけることが大切です。
新卒の内定辞退を減らす際の注意点
内定辞退を減らすための取り組みを行う際は、いくつかの注意点があります。
過度な引き止めは逆効果
内定辞退を懸念するあまり、学生を過度に引き止めようとすることは避けるべきです。しつこく連絡を取ったり、プレッシャーをかけたりすることは、かえって学生の印象を悪くします。学生の意思を尊重しつつ、適度な関わりを持つことが肝要です。
内定通知前後での一貫した対応の重要性
内定辞退を防ぐためには、内定通知前と通知後で一貫した対応を取ることが重要です。
- 選考中は、学生の希望や不安を丁寧に聞き取り、誠実な対応を心がける
- 内定後は、定期的なフォローを欠かさず、学生との信頼関係を築く
- 入社前研修やアルバイトを通じて、学生に自社の理解を深めてもらう
このように、一貫性のある対応を行うことで、学生の安心感を高め、内定辞退を防ぐことができるでしょう。
内定辞退率低下に成功した企業事例
内定辞退率を低下させるには、企業の課題に合わせた創意工夫が必要です。以下に、内定辞退防止に成功した3社の具体的な取り組み事例を紹介します。それぞれが異なる業界や背景を持ちながら、独自のアプローチで成果を上げています。
株式会社ジャパングレイス
出典:)株式会社ジャパングレイス
株式会社ジャパングレイスは、地球一周やアジアでのクルーズ旅行を企画・運営する企業です。しかし、「世界一周の船員」というイメージが先行し、実際の仕事について理解が浅い応募者が多いという課題を抱えていました。添乗期間が100日にも及び、プライベートな時間がほとんどないなど、仕事の厳しさを伝えると選考辞退や内定辞退が頻発していたのです。
これを解決するため、求人広告に仕事の厳しさを「優雅じゃない、世界一周旅行記」として明示しました。この結果、覚悟を持った候補者のみが応募するようになり、内定辞退率は0%を達成しました。さらに、面接時間を効率化でき、企業側・候補者側の双方にとって有益な成果をもたらしました。
株式会社ニトリホールディングス
出典:)株式会社ニトリホールディングス
ニトリホールディングスでは、内定者フォローの一環として「エンプロイー・ジャーニーマップ」を導入しています。このマップは、内定者が入社後に達成したい目標やビジョンを明確化し、どのような業務を通じてそれを実現していくのかを可視化するものです。
この取り組みは、入社前の段階で企業文化や成長機会への理解を深める効果があり、内定者のモチベーションを大幅に向上させました。さらに、社員の自立性やキャリア構築を支援する企業風土を伝えることで、内定辞退率の低下に成功しています。
株式会社GA technologies
出典:)株式会社GA technologies
株式会社GA technologiesは、不動産業界でAIを活用したプラットフォームを提供しています。同社では、内定者に対し国家資格「宅地建物取引士(宅建)」の取得を支援する取り組みを実施しています。
このサポートでは、指定教材の提供や費用負担に加え、本番試験に合わせた模試の実施や結果に基づく1on1の個別指導が行われます。また、先輩社員が要点をまとめた資料や一問一答を毎日配信するなど、主体的に学べる環境を整えました。
さらに、宅建の取得が業務にどのように活用されるかを説明し、内定者のモチベーションを維持。これらの施策が内定辞退防止に繋がり、同時に企業の専門性や信頼性をアピールする結果にも結びついています。
まとめ
新卒採用における内定辞退は、企業にとって大きな課題であり、その防止には様々な取り組みが必要です。学生が内定を辞退する理由を正しく理解し、適切な対策を講じることが求められます。
人事担当者の誠実な対応、社内見学や交流機会の提供、学生の優先順位の把握、企業理念の共有、選考スピードの向上、内定者フォローの充実など、多角的なアプローチが効果的でしょう。一方で、過度な引き止めは逆効果であり、学生の意思を尊重することが肝要です。内定辞退防止には、内定通知前後で一貫した対応を取ることが重要です。
企業は、内定辞退の実態を正しく把握し、適切な防止策を講じることで、優秀な人材の確保につなげていくことができるでしょう。